こんな記事の中に、マイクロ法人やペーパーカンパニーを作ることで社会保険料を圧縮するスキームが載っていました。ある程度雑所得がある方であればマイクロ法人に所得を移動することでメリットはありますが、ほとんど雑所得がない場合、はたしてマイクロ法人を作るメリットがあるか検討しました。
対象とする層
- 収入の大半が給与所得
- 一つの事業所に週20時間以上勤務しておらず、社会保険加入がない
- 副業収入はゼロかごくわずか
- iDecoを利用していない人 ← 所得控除額に影響するため追加しました(2020/6/24追記)
多くの医師大学院生は該当すると思います。
健康保険料・年金の負担
家族のいる世帯であれば医師国保や国民年金保険では年間80万円程度かかることが多いでしょう。全額社会保険料控除されるので手取り金額の差としては所得税率に応じて45~60万円/年程度ですが、4年間で200万になります。最初の2年は任意継続で低額に押さえても3年目4年目になると負担感はそれなりです。
フリーランス医は厚生年金には加入しておらず国民年金ですから、年金の負担は月額16410円*12 = \196,920/年(約20万円)ですね。
全国健康保険協会の「被保険者の方の健康保険料額」を確認します。都道府県ごとに若干の違いがあるようですが、ここは東京を参考にします。 ざっと役員報酬として3万円/月支払うことにしましょう。

厚生年金保険料は国民年金保険料とほぼ変わりません。 介護保険第2号保険者に該当しない場合の健康保険料は月額5742円*12=\68,904/年となり、形式上はこの半額を給与から天引とし、残りの半額を法人が負担する形です。役員報酬の3万円から差し引いて、控除後の手取りは\19,077/月ですね。
以下でも述べますが、役員報酬のうち社会保険料を上回る部分については個人の所得税住民税が課税されますので注意が必要です。
役員報酬はいくらにするか
常勤役員として法人から役員報酬を払うわけですが、本来自分のお金であった資本金から支出する上に役員報酬には個人の所得税がかかりますから当然その報酬は圧縮したいところです。
この最低額については、厚労省から年金事務所に通知された疑義照会への回答が参考になります。
「役員であっても、法人から労務の対象として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者とする」とされていますが、(中略)総合的な判断が必要であり、最低金額を設定し、(中略)妥当ではありません。(中略)業務の内容に対して、1円の報酬しかないなど内容に相応しいものかどうか疑わしい場合は、(中略)調査し判断してください。
https://www.nenkin.go.jp/info/gigishokai.html
これは、個別の事例については年金事務所の裁量が認められており加入を断られる可能性もある、ということです。よって過去の事例を参考にチキンレースをするしかありません。
いくつか税理士さんのブログなどを見てみますと、
社会保険料の最低額である1万2,000円程度は確保しなければ、年金事務所から断られることになります。 ただ、この役員報酬は、最低限必要な金額であり、年金事務所から渋られる可能性は高いです。 所得税や住民税なども考慮すると、月額5万円以上の役員報酬が理想的となります。
https://ashiyakaikei.com/director-social-insurance-least-amount/
実際は3万円~5万円程度の役員報酬を出しているケースが多いようです。以下では3万円として計算してみます。
モデルケース1(家族4人の場合 +所得税率33%の場合 )
個人:本来支払うはずだった健康保険料(年間限度額) | -800,000 |
個人: 控除されていた所得税・住民税(33%+10%で計算) | +344,000 |
個人: 健康保険料の個人負担分 | +34,500 |
個人: 役員報酬の所得税・住民税 (33%+10%で計算) | +98,500 |
法人:住民税(赤字として定額部分) | +70,000 |
法人:健康保険料の法人負担分 | +34,500 |
合計 | -218500 |
この額を稼ぎ出すためには、38万円の 給与収入が必要です。
モデルケース2(家族4人の場合 +所得税率23%の場合 )
個人:本来支払うはずだった健康保険料(年間限度額) | -800,000 |
個人: 控除されていた所得税・住民税(23%+10%で計算) | +264,000 |
個人: 健康保険料の個人負担分 | +34,500 |
個人: 役員報酬の所得税・住民税 (23%+10%で計算) | +75500 |
法人:住民税(赤字として定額部分) | +70,000 |
法人:健康保険料の法人負担分 | +34,500 |
合計 | -321500 |
この額を稼ぎ出すためには、48万円の 給与収入が必要です。
モデルケース3(被扶養者なし +所得税率33%の場合)
個人:本来支払うはずだった健康保険料(東京都医師会医師国保) | -390,000 |
個人: 控除されていた所得税・住民税(33%+10%で計算) | +167,700 |
個人: 健康保険料の個人負担分 | +34,500 |
個人:役員報酬の 所得税・住民税 (33%+10%で計算) | +98,500 |
法人:住民税(赤字として定額部分) | +70,000 |
法人:健康保険料の法人負担分 | +34,500 |
合計 | +15,200 |
扶養者なしである程度収入がある方ではかえって負担増になりました。メリットがあるのは扶養者が多くて国民健康保険や医師国保の保険料は高いけども、所得税率はそこまで高くない人に限られそうです。扶養なしで所得が少ない方については計算していませんが、大きく有利になることはないはずです。なお、ここには税理士報酬を加えていないので、もし税理士に依頼して10~20万円程度かかるとするとメリットが一気に消失しそうです。
結論
役員報酬を3万円ではなくもう少しギリギリを攻めればもう少し節約額が増えるかもしれません。また、法人税固定額の割合も大きいですから2-3人で合同会社を設立する手もあるかもしれません。とは言っても、
- もともとの社会保険料控除が高額
- 役員報酬が社会保険料を上回ったときの個人所得税額が高額
の2点から、「劇的な圧縮」とまでは言えないのではないかと考えます。
(2020/6/24追記)
上記の考察では、iDecoの上限額の変化を考慮していません。一号被保険者であれば上限額が月額68000円ですが、二号被保険者になることで上限額が23000円になります(あくまで個人型の話です)。45000円/月=54万円/年の差額が生じます。iDecoは出口でも課税される可能性があるため一概には言えませんが、もともとiDecoを上限額利用していた場合、所得税率33%の方で約23万円、23%の方で約18万円所得税負担が増えることに注意してください。小規模企業共済などが利用できるとまた変わってくるかもしれません。
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